竹工芸専攻 教授石田 正一
Profile
「現代の名工」(厚生労働省表彰「卓越技能者」2018年)
「京の名工」(京都府伝統産業優秀技術者)
18歳で先代の父に師事し京竹細工師に。
父親が早くに亡くなり、家族を支えるために本格的に竹工芸の世界へ。
一人前になれたと感じたのは25歳。
それまでに10年の月日を必要とした。
つくり手の技を究め、
「用の美」も極めるのが、
ものづくり。
Ishida Masaichi
つくればつくるほど技が磨かれ、
自分のものになる。
竹細工の魅力とは
人と同じで一本ずつ、性質が違うことかな(笑)。竹の性格を見極めるのは大事だ。でも、それはやってるうちにわかってくるし、段々と面白くなってくるから、心配せんでいいよ。
全国的に見れば、竹工芸は分業でやる地域もある。でも京都の竹細工は自己完結で、始めから終いまで、すべてを自分でやります。材料選び、材料づくり、竹割、編み、といくつも工程があるけど、大きく分ければ「材料づくり」と「編み」の2つの工程になる。
竹を割る材料づくりは、つくるものによって一つずつ、厚みも巾も変えます。そして自分の頭の中に、しっかりと設計図を描くわけです。竹の編み方がまた複雑で、100種類以上のやり方があるし、さらに自分で新しいやり方を考える面白さもある。
まあでも、編むだけなら集中して学べば、何年もかからずにできるようになる。でも、厚みや巾を揃える材料づくりは、そうはいかない。それがきちっとでけんと、設計図があってもダメだ。だから、材料づくりを一番大事にしています。
心に響く何かがあれば、
道を究めていく見込みは十分にある。
竹細工を学ぶ学生に、いつも伝えていること
まずは竹が好きじゃないと続かない。竹細工の仕事を志す学生には「目一杯、この仕事を好きになることが大事だよ」と言い続けてきました。もう一つ、この仕事は本当に奥が深い。日常雑器から美術工芸品まで、ジャンルも幅広い。だから、やればやるほどはまるし、やりがいがある。そういう魅力や醍醐味に、少しでも早く目覚めてもらいたい、と伝えています。
若いから不安があるのは当然
学生からよく「自分が向いているか、不安です」と相談を受けます。若いから当然だし、そんな時は「まあ数年間、やってみいや!」と言うんです。不器用な人だから向いてない、でもない。手は遅くても、緻密なことに長けている人も多いですから。
近視眼で目の前ばかり見ずに、もっといろんなものを知ることが大事だよ、とも言うんです。先人の竹細工の作品を、見に行くのもいい。見た目は同じ竹細工でも、自分なりの解釈ができるようになっていきます。それが道を究める、ということにもつながるんですよ。
道を究める秘訣
手を鍛えながら、心も磨く、ということやね。精神面も、凄く大事。初めて茶道具をつくる時も、まず自分が茶道を稽古して、使う立場に立ってみることから始めましたよ。
それは「用の美」と言って、一方的に自分の作品を押しつけるのではなく、使い手から考えてつくる、ということ。それがわかってくると、つくったものが売れるようになるし、何よりもお客様に喜んでもらえるようになる。そこですよ。技を究めると同時に、「用の美」に想いが至るところまで極めるのが、ものづくりなんですよ。
伝統の技があるから、
新しい竹細工の世界が生まれる
他分野からも注目される伝統工芸の技
伝統の技を見込んで、いろんな依頼が来ますよ。ある芸術ホールから、アルミニウムを編み込んだ天井をつくって欲しい、ということもありました。機械では一枚板みたいになってうまく編めなかったらしい。世界的なデザイナーのイッセイミヤケさんからも、パリコレクションに出品するドレスを竹で編んで欲しい、と。時代とともに生活スタイルや道具が変わると、新たな竹細工の世界が生まれるのも、楽しみですよ。
伝統の技を継承したい、と志を持つ若い人が増えるのは、本当に嬉しいこと。AIや機械化が進んでも、新しいカタチや用の美は、感情を込めて感性が溢れ出る、個性ある人間の手から生まれるものなんですよ。