漆器職人浅田 明彦
(有)浅田漆器工芸 専務取締役
漆工芸専攻/2008年卒業
小松大谷高校(石川県)出身
父の想いと先生のアドバイスから
職人、そして経営者の姿勢を学ぶ。
山中漆器を未来へつなげるために
インターン制度プロジェクトを始動。
卒業後、浅田漆器工芸で勤務するようになりましたが、TASKでの学びなど外の世界に触れなければおそらく気づかなかった山中漆器の課題についても考えるようになりました。今、漆器自体は若い人にあまり知られておらず、山中でも若い職人が増えないため職人も減少しています。中でも山中漆器の「叢雲塗(むらくもぬり)」ができる職人は、今や一人しかいません。
そんなとき、TASKの先生の「これで満足だと思ったらそれでおしまいだ」という教えを思い出し、伝統にとらわれず新しい素材や試みを取り入れ工房をさらに発展させていくことを決意。そして、「叢雲塗など山中漆器の伝統と技術を絶やすわけにはいかない」と考えた私は、クラウドファンディングで協力を募り、地元の職人や団体にもお手伝いいただきながら、TASKの在学生などが山中漆器を学べる「山中漆器インターン制度」を設立しました。この取り組みは、まだスタートしたばかりですが、私自身がTASKで身につけた、技術だけではなく人とのつながりを大切にすることを具現化したものです。そして、これからも山中漆器を未来へつなげるために、職人としての探究心、謙遜する心、精神性を持ちながら、挑戦し続けていこうと考えています。
叢雲塗は、漆が固まらないうちに和ろうそくの煤をつけて仕上げる塗り方です。
むらくもカップは、2019年度全国伝統的工芸品公募展で最高賞である内閣総理大臣賞を受賞。
実家が山中漆器の製造販売を生業としていたこともあり、幼い頃から当たり前のように父の後を継ぐと思っていました。高校生になり、卒業後は地元の石川県立山中漆器産業技術センターで学ぶつもりでしたが、「外の世界を見て違う文化に触れてきてほしい、そして山中にはない技術を学んで戻って来てほしい」という父の想いもあり、TASKに入学しました。TASKでは、毎日手を動かしていれば自然と技術が身につき、どんどん形になっていく面白さや醍醐味を体感できました。学園祭では自分の作品を人にわかりやすく説明する経験もできて、現在の業務にも役立っています。TASKの先生方からさまざまなアドバイスをいただいた中でも「あんたは職人を守るような人にならないかん」という言葉が強く印象に残り、職人と二人三脚で歩んでいく気概や姿勢を、TASK在学中に意識するようになりました。
竹工芸職人・京もの認定工芸士細川 秀章
竹工房 喜節 代表
竹工芸専攻/2007年卒業
竹工芸士(編組)一級技能士
京もの認定工芸士(京竹工芸)
作ったものを長く愛用していただき、
その人の歴史になるのが理想です。
TASKを卒業後すぐに独立、
いつでも誰でも使える竹バッグを考案。
TASKに入学したのは31歳の時。それまで企業で働いていたのですが、好きだったものづくり、その極みと言える伝統工芸をやろうと思ったのです。竹工芸を選んだのは、伝統工芸の中で最も情報が少なく、取っ掛かりが見えなかったからです。それは競争が少ないということを意味していると思いました。
卒業と同時に独立。今の暮らしにマッチし、もっと使ってもらえる竹工芸品を作ろうと、TASKの卒業制作で作ったトランク・アタッシュケースをもう一度作ったのです。竹のバッグというものは昔からあったのですが、それは和装の時に持つもの。それらとは一線を画し、男女も季節もシーンも問わず、いつでも誰でも使えるものをめざしました。
網代編セカンドバッグは、2018年度全国伝統的工芸品公募展で最高賞である内閣総理大臣賞を受賞。
細部にわたるこだわりが高い評価を得ました。
私はものを作る時は「すごい」と言われるものよりも「欲しい」と言われるものを作りたいのです。それはTASK時代から変わっていません。しかし、伝統工芸は周りから見ればどんどん特別なものになってきています。バッグなのに、ずっと飾られているのではなく、バッグとして使って欲しいです。孫の代まで受け継いでもらって、「これおじいちゃんの」と、使っていた方の姿と一緒に思い出してもらえるのが理想です。
TASK時代、教わっていた先生から言われた、「いいものを作ること」「作るだけでなく考えること」。
工芸を生業としている今、どちらもとても大事なことだとお二人の言葉を実感し、噛み締めています。
家具職人・伝統工芸士東 福太郎
(有)家具のあづま 代表取締役
木工芸専攻/2007年卒業
粉河高校(和歌山県)
→関西国際大学出身
伝統工芸士(紀州箪笥)
カッコいいと言われる存在になることで、
伝統工芸士を憧れの職業にする。
TASKがあったから、今の自分がある。
それくらい多くのことを学んだ。
家業である桐たんす店を継ぐための修行としてTASKに入学しました。大学卒業後、22歳の時です。最初は職人になる気はありませんでした。
それが実習を重ねるうちに負けず嫌いの性格に火がつき、気づけば誰よりも夢中で取り組むようになっていました。先生をライバル視して、先生ができるのに自分にできないわけはないって思っていました。TASKで学んだことは本当に大きいです。技術的なことはもちろん、ものづくりの心構えや日本の文化、先生方との出会い、友人たちとのつながり、すべてが今に生きています。TASKが今の自分を作ったと言っても過言ではありません。
メゾン・エ・オブジェにも出展されたスタッキングディッシュ。
上から見ると蓮の花に。中央には日本の象徴「富士」というグラスが。
卒業後、転機となったのは2016年。クラウドファンディングを使って、桐のグラスを作った時です。きっかけは桐たんす業界を活性化させるために、身近な製品を作り、多くの人に桐を知ってもらおうと思ったこと。クラウドファンディングを使ったのは、資金集めがしたかったのではなく、話題づくりです。
その狙いが的中し、ニュースで取り上げられ、それを見た新聞社から「LEXUS NEW TAKUMI PROJECT」に推薦されました。ここでグランプリを獲ったら大変なことになる、と笑っていたら、それも現実に。世界が変わりました。
そこから家具の世界三大見本市とも言われるイタリアのミラノサローネ、フランスのメゾン・エ・オブジェにも出展。そこで各国のクリエイターや実業家とつながったことで活動の場も広がりました。
このような取り組みに参加しメディアに取り上げられている私を見て、我が子は「カッコいい」と言ってくれています。そのようなイメージが広がれば、後継者不足で悩む全国各地の伝統工芸を救うことができるのではないかと思っています。伝統工芸士を子どもたちの憧れの職業にすること。それが今の私の最大の目標です。
鋏職人生馬 千加
(有)菊井鋏製作所 勤務
金属工芸専攻/2018年卒業
慶風高校(和歌山県)出身
完成形をイメージしながら、
スピーディかつ高精度なプロの仕事を。
地元である和歌山で働きたいと就職した菊井鋏製作所。1953年創業という老舗の理美容専用の鋏メーカーです。鋏を作る工程は大きく7工程あり、社内で分担しています。
私が現在担当しているのは、溶接されたあとの粗削りの部分。削りすぎると元に戻せませんし、残しすぎると次の工程の負担が大きくなります。集中して最適な量を削ることに神経を尖らせています。また、菊井の鋏はオーダーメイドで一丁一丁長さや形状が異なるのですが、設計図などはなく感覚がすべて。常に完成形をイメージしながら作業しています。
商品ですので、もちろん微細な傷も許されません。それはTASK時代から何度も先生に言われていたので、細心の注意を払い、丁寧に扱うことを心がけています。学生時代はひとつの作品に時間をかけることができましたが、仕事ではスピーディかつ高い精度で作業しなければなりません。そこが大きな違いですね。
2年目の今はまだまだ見習い。ベテランの職人でさえ、まだわからないことがあるという奥の深い仕事ですが、早くすべての工程をできるようになりたいです。
ロクロ師・伝統工芸士前田 昇吾
九谷焼窯跡展示館 勤務
陶芸専攻/2006年卒業
大聖寺高校(石川県)出身
伝統工芸士(九谷焼)
九谷焼の歴史の証人である窯跡から、
その魅力と作る楽しさを発信。
TASKを卒業して、石川県の工房に就職。そこで9年間、弟子として腕を磨き、縁があって「九谷焼窯跡展示館」で勤めることになりました。
ここは国指定史跡の窯跡や現存最古の窯があり、九谷焼のさまざまな情報を発信する施設です。主な仕事はろくろ体験の指導や解説、観光客や学生が多いので、とにかくろくろを楽しんでもらい、この体験で楽しい旅の思い出づくりのお手伝いができるように心がけています。焼き物職人として仕事をしていると、普段お客様と接することがありません。しかし、ここでは目の前で技を披露したり、お話をして焼き物の魅力や面白さを伝えることができます。また来ますと言って、実際に来てくださる方や、御礼の手紙をいただくこともあります。職人時代にはなかった喜びですね。
またその一方で作品制作にも力を入れており、東京や大阪の百貨店などでのグループ展やイベントにも出展しています。伝統工芸士にも認定されたので、これからもより多くの方に九谷焼の魅力を伝えていき、陶芸家として作品づくりも精力的に行っていきます。
漆芸家芦田 直子
漆工芸専攻/2014年卒業
勝山高校(岡山県)→
職業能力開発総合大学校出身
第41回日本新工芸展
日本新工芸賞受賞
修理は丁寧に。作品づくりは大胆に。
いつか自分のブランドを。
TASKを卒業後、塗りを教わっていた大家先生に師事。現在、茶道具などの制作・修理と作品創りを行っています。修理でお引受けしたものは依頼主の愛着や想いがこもっています。それらに向き合い、この先も永く使い続けていただけるように丁寧に仕上げることを心がけています。
作品では、これまで培った経験を活かし、今までの漆芸では見られない世界観で常に観る方を驚かせるようなものを創っていきたいと思っています。漆は建築物から小物に至るまで幅広く使われてきた日本の伝統的なもの。将来的にはこれまでの経験とスキルを活かし、デザインから製造販売に至るまで独自のブランドを構築しプロデュースしていきたいです。
彫刻家荒木 真心
宮本工藝 勤務
木彫刻専攻/2018年卒業
西京高校(京都府)出身
木彫クリエイターを目標に、
仏像彫刻の技を身につける。
まさか仏像の道に進むとは思ってもみなかったですが、工房を見学させていただいた時に、すごく雰囲気が良く、作品にも魅力を感じたので、お世話になることを決めました。仏像彫刻の経験がないので、戸惑うこともありますが、木彫刻の基礎があるので、師匠も教えやすいと言ってくださっています。
現在は置物を制作したり、仏像の修復を少しずつ覚えている毎日です。TASK時代、一般企業に就職しようと思った時期もありました。しかし、今はものづくりこそ天職と確信しています。ここで高度な彫刻の技術を覚え、いつか木彫クリエイターとして、木彫刻らしさがありながら生活になじむ作品を生み出したいと思います。